有頂天晴果のこと

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2015年1月2日金曜日

八百屋を始めた理由 その5「京野菜直売所(前編)」

本一周から帰って地元で就職し、安定した生活を手に入れましたが、
リーマンショックの影響で、職場で大規模な人員の削減があり、
わずか三年ほどで、退職することになってしまいました。

転機はその後、訪れます。
ハローワークにて、京都市が立ち上げた、
「京の旬野菜」の直売プロジェクトの販売スタッフを募集していたのです。

市に「京の旬野菜農家」として認定された契約農家が、
様々な得意野菜や新品種を持ち寄って出荷する、街ナカ、駅ナカの直売所。
そこで販売を担当する仕事でした。

この時点では、野菜販売に関する知識や経験があったわけではなく、
面接のときには、高原レタスの栽培経験や、日本一周中に各地の野菜を食べ、
地域ごとの食材の違いに興味を持った経験などを話しました。
結果、めでたく採用となり、私にとってのはじめての野菜販売がスタートしたのです。



日に、劇的な巡り会いがありました。
それは、「山科なす」との出会いです。
研修として配属された山科にある直売所で、売れ残っていた山科なすを買い、
洗って、切って、フライパンで焼いて、塩胡椒を振るだけの調理をしたところ、
これがびっくりするくらい美味しかったんです。


卵の様な形の山科なす







山科なすを炒めただけ。


科なすは、大きさは普通のなすと同じくらいの、卵のような形をしたなす。
100年前には京都のごく一般的ななすといえばこれでしたが、
戦後、「千両系なす」と言われる病気に強く、収量が多く、
日持ちもする新品種にとって変わられました。

一度は絶滅しかけた山科なすですが、現在でも、
山科の数軒の農家や、市外の一部地域の方が栽培してらっしゃいます。
値段は一般的ななすより1.5倍程度高いですが、味は格別。
噛み締めた時の食感が特に違います。

山科なすは、それまで野菜の品種など意識もしていなかった私を変えました。
これを機に、野菜、そして京野菜に対して興味が湧き始めたのです。



て、研修も終わり、季節は10月末。
大規模商業施設の屋外にある広場スペースにテントを張り、
テーブルを広げ、そこにカゴに入った野菜をずらりと並べる。
即席の直売所ができました。


テントの下に机、そして野菜コンテナだけの野外店舗。


日によっては並べきれないほど野菜が届く。


僚は全員、同じ日に採用された、野菜知識ゼロの面々。
これで大丈夫なのかと不安はありつつも、
山科なすをきっかけに生まれた興味に駆られるままに、
買っては食べ、買っては食べの繰り返しと、
関連書籍の読みあさりで、経験と知識を付けていきました。

そんなある日、いきなり店長をやるように言われ、
心の準備もできないままに、渋々店舗責任者となりましたが、
これが後に、大きな自信と経験、商売の楽しさを知るきっかけとなったのです。

頑張れば頑張ったぶん、お客様は増え、売り上げもどんどん伸びていき、
農家さんの期待もふくらんで、やりがいにつながりました。

市内の農産物のPRも兼ねた事業でした。そのためスタッフは多めです。


販売素人の集団なので、POPや値札、商品説明……すべて手探りでした。


ころで、この店舗は京都市内各地の野菜を日替わりで扱うという試みでした
北・南部、西部、東部、中央部という具合に4つのグループに分かれていて、
そのためとても多種多様な野菜が入ってきました。

自分の知らないものを見つける度に買って帰り、本やネットで調べ、
調理法を調べて味わい、その体験を基に販売する。
この繰り返しで少しずつではありますが、
野菜を販売するための力が身についていったように思います。

知識がなく、独学だったからこそ、自分が食べることではじめて、
販売することに自信を持てたとおもうのです。

結局、お店に並ぶ品種は、九割以上を食べましたので、
必然的に食事は野菜中心となりました。
(市場価格よりも高価なので、食費も結構かさみました(--;))


これだけ並べても、数時間で完売。


カラフルなカリフラワーや京都産大柑橘


人の顔より大きなカリフラワー。


た、もうひとつの大きな気づきは価格についてです。

この直売所は値段は農家さんが自由につけていました。
そのため、同じ野菜でも、人によって値段はまちまち。
100円のほうれん草のとなりに120円、さらにとなりは200円のほうれん草…
みたいなことも当たり前のように起こります。


ある日の風景。5人5様のほうれん草。おひたし向き、鍋向き、炒め物向きなどで差別化。


伝統野菜・聖護院大根。おでんや煮物に使うと、絶品の味わい。



おむね、スーパーなどでの相場の1.5倍くらいの価格設定が多く、
一部の人はさらに高い価格をつけました。
というより、相場に関係なく、自分の野菜にはそれだけの価値がある、
その値段でも売れると信じているためでしょう。

実際、そうした高価格野菜も、飛ぶように売れました。
極端な例では、スーパーで100円で大根が売ってるときに、400円の大根。
それでも1日何十本も売れます。
一本買っておでんにしましたが、確かに、
『なんでこんなうまい大根になるの?!』
驚いたことを鮮明に覚えています。

誤解を恐れずに言えば、この大根が仮に100円で売られていたら、
もしかしてそこまで感動していなかったかもしれません。

それは、高いから美味しく感じる、ということではなく、
高いからちゃんと味わおう、という姿勢が生まれる、
この姿勢が美味しく食べるために大事なことではないかと思うのです。

お客様は「安い物を好む」のではなく、「安くて良い物」を好むのです。
また、「本当に良い物は高くて当然」ということもよく知っていて、
「安い物は所詮、値段相応の品か訳あり品」という先入観があります。

本当に美味しいものでも値段が安ければ、
「安い割には美味しいね」という感想に落ち着き、
「次も安ければ買おう」という意識で終わりがちです。

そのためにも、品の価値にあわせて金額を設定する。
値段そのものにも、意味(物語)を持たせる
そして売る人間がその値段の理由を、明朗に伝える

ただ高く売るだけでも、安く売るだけでもダメなんだとそのとき実感しました。



雨の日は客足がぱたりと途絶える。


野外販売なので、雪の最中も営業。


雪の日でも売れ行きは好調。


雪の日は片付けも一苦労。




のお店は10月から3月までの期間限定店舗だったので、
真冬の吹雪の中もずっと野外での業務でした。
晴れの日も、雨の日も、吹雪の日も、声を張り上げて、
呼び込みしていたことを覚えています。

野外店舗だったからこそ、野菜が今育っている気候を肌で感じられ、
充実した日々を過ごすことができました。



節が変わり、野外直売所の閉店とともに、
観光地で有名な嵯峨野・嵐山にほど近い、
右京区太秦にある直売所へ移動となります。
そして引き続きそこで、店長業務に就くことになったのですが……

そこでの出来事は次回また書こうと思います。

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