有頂天晴果のこと

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2015年1月9日金曜日

八百屋を始めた理由 その7「南米旅行」


売所の仕事が終わってしまい、さてこれからどうしようか考えました。
今後は、腰を据えて野菜販売に関わる道に進みたいと思います。
ですが、いまひとつ具体的なビジョンが見えてこない。

直売所だけでなく、一般的な八百屋の業務も経験しておきたい。
また、当時すでに話題になっていた野菜ソムリエの様な、
「販売」より「紹介」に比重を置いた活動にも興味がある……
どんな野菜屋になりたいのか。

あれこれ考えを巡らしていた中で、ある日突然、

そうだ、南米行こう

と思い立ちました。
目的地は、ペルーです。

世界遺産である憧れの空中都市マチュピチュ!
幼い頃から浪漫を感じたナスカの地上絵!

……も勿論ありますが、それだけではありません。
自分をそのとき強く後押ししたのは、そこが、
トマトやじゃがいもを始めとする、たくさんの野菜にとってのふるさとだということ。


えば、マチュピチュの特徴的なあの階段状の遺構。
あれは、とうもろこしじゃがいもなどを作るための段々畑なんです。
切り立った峰で、効率よくいくつもの野菜を栽培するため、
日当たりを考慮して作られた、インカ時代の農業技術の賜物。

今風に言うと、シティファームですね。
東京都心のビルの屋上に畑が出来たりする時代ですが、
マチュピチュでは都市の側面(斜面)に畑を作っていたわけです。

アンデスには、インカ道と呼ばれる街道(とは言っても人一人通れる程度の道)が、
縦横無尽に走っていて、海の幸も新鮮なまま、山上まで届けられたといいます。
ですから、マチュピチュは完全な自給自足の街では無かったでしょうが、
それでも主食の多くを、この都市農場でまかなっていたのでしょう。


マチュピチュの大規模な山間農業地。当時はこの斜面は畑でした。

日当たり良好な段々畑。


下を見ると数百メートル下の谷底がよく見える。高所恐怖症の人にはつらい立地。


雨の降らない山頂なのに何故か水が湧く。



有名なこのアングル。奥の山(ワイナピチュ)に注目


山頂あたりをよーく見ると…


ここにもびっしりと段々畑っ!



うしたことを始め、原産地で、どんな野菜が栽培されているのか、
そしてどんな形態で売られているのか、実際に現地を訪れて見聞きすることは、
今後自分の進む野菜に関わる道で、必ず役に立つに違いない、そう思いました。

以前から、日本のさつまいも発祥の地や、小松菜の原産地など、
休みを利用して日本各地の野菜ゆかりの地を訪れてはいましたが、
海外旅行は初めて。

すぐに準備に取りかかり、パスポートも取得。
直売所閉店から約一ヶ月後の5月5日、単身、南米旅行に出発しました。




本でも、北海道と東京と沖縄では気候が全く違うように、
ペルーのそれも地域によって大きく異なります。
気候の違いから、植生も大きく変わるので、栽培される食べ物の種類も違います。
流通は発達しているとは言え、鮮度や輸送費の問題からか、
特に市場や街頭の露店などを覗くと、その地域でとれるものが多く目に付きました。

ペルーの気候は大きく分けて3つ。

コスタ…「海岸・砂漠」エリア。海岸地域
シエラ…「山・湖」エリア。アンデス地域
モンターニャ…「河・ジャングル」エリア。アマゾン川流域



コスタは、海辺の乾燥地帯です。
砂漠や荒野が広がり、アンデスから流れてきた川や、
わき水に寄り添うように、街や都市が発展しています。

雨が降るのは数十年に一度、という地域も珍しくありません。
そのため数多くの古代遺物が残ります。ナスカの地上絵は有名ですね。
北部で見かけたサトウキビの大農園は、沖縄の風景を思い出しました。

コスタは野菜果物よりも、豊富な海産物が食の中心。
豊富で新鮮な海の幸を使った魚料理は、日本人も納得の美味しさです。
海では、翼竜の様な風貌のペリカンオタリア、ペンギンなどが見られます。


左)首都リマのショッピングモール  右)北部の古代遺跡「月のワカ」

左)見渡す限りのサトウキビ畑  右)サトウキビは人の背丈より大きい

左)乾燥した平野部  右)インカ時代に作られた今も現役な水源

ナスカの地上絵「ハチドリ」

左)プテラノドン…じゃなくてペリカン  右)イグアナの一種


左)平和すぎるオタリア(アシカの仲間)の群れ  右)ペンギン

太平洋に沈む夕日(ワンチャコ海岸)




次にシエラ
山岳地帯の総称です。いわゆるアンデス
じゃがいもトマトピーマンをはじめとする、
多くのナス科野菜の原産地であり、雨が少なく、冷涼で乾燥した土地です。
インカ時代の大規模な石の遺跡が未だに多く残ります。

標高の低いところでは熱帯性の植物が多く見られ、
海抜2000メートルを超えるとトウモロコシなどがよく育ちます。
3500メートルあたりになると冷涼な気候を好むジャガイモ
4000メートルを超えると、作物は育たず、リャマアルパカなどの飼育。
それを超えると冠雪地帯。6000メートル級の山々が連なります。

同じ野菜でも地域差が大きく、栽培されるジャガイモは数千種類にも及びます。
毛が最高級品として取引される、アルパカの親戚の野生ラクダ・ビクーニャや、
唄で有名な大型猛禽コンドル、ピンク色が美しいフラミンゴなども生息します。

どこへ行っても、料理のメイン、あるいは付け合わせにじゃがいもが出ます。
多種多様のとうもろこし、芋の様な甘い紫の野菜(ヤーコンかな?)も定番。
フルーツは、マンダリンオレンジアボカドトゥーナ(ウチワサボテンの実)などを、
道ばたで直売しているのをよく見かけました。
最近日本でも名前を聞くようになった穀物「キヌア」も、
レストランやツアーなどで食べる機会が多かったです。

左)オリャンタイタンポ遺跡  右)ピサック遺跡 どちらも農業遺跡

左)古都クスコの市街地  右)富士山に似たミスティ山を望むアレキパ市(人口第二位の都市)

アレキパ郊外のビクーニャ(野生の高山ラクダ)

アートのように美しいチバイ村の農耕地

左)標高4500メートルあたり(ボリビア)  右)ラグナコロラダ(標高4300m)のフラミンゴ(ボリビア)

左)乾期のウユニ塩湖(標高3700m)。見渡す限り全部塩(ボリビア)  右)ジャガイモ原産地チチカカ湖(標高3800m)

世界の果ての様な風景ソルデマニャーナ(標高4850m)。噴気の上がる間欠泉。(ボリビア)

左)放牧中のアルパカ   右)食事中のハチドリ

クロスデルコンドルの谷を舞う、大人のコンドル



そして、セルバ(モンターニャ)アマゾン流域です。
熱帯のジャングルなので、蒸し暑く雨も多いです。
ピラニアピューマタランチュラピンクイルカなど特有の生き物が生息。

作物としてはこの地域の主食である野菜バナナを始め、
様々な熱帯系フルーツの宝庫です。
スーパーフルーツといわれるカムカムアサイーなどを始め、
日本では知られていないフルーツも、無数にあるようです。

レストランでは、巨大魚ピラルクーなどのナマズ類を使った料理も出ます。
ペルーの中で例外的に、この地域は雨がとても多く、気温も湿度も高いです。

他の地域と川で分断されているため、車ではなく、
二輪あるいは三輪(バイク)が交通の要となっています。
タクシーもほとんどが三輪車です。

時間の都合上残念ながら、市場を見られなかったのですが、
ガイドブックによれば、川魚の加工品、巨大昆虫の標本、アマゾンのフルーツ、
クモザルなどの動物(ペット用として)などが売られているそうです。



広大なアマゾン

ピラニアのいる川

左)沖縄のシマオオタニワタリのさらに巨大版  右)沖縄のクバに似たヤシ科植物  

左)ピラニア。釣り針に鶏肉をつけ、水面をばっしゃばっしゃ叩いて釣る  右)やけにスリムなカエル 

左)マタマタ(亀)  右)ニシキヘビのでかいやつ。すべすべさらさらしてて意外と触り心地が良い

左)一緒に探検した地元の少年  右)ロッジの入り口

アマゾンに沈む夕日





上の様な地域の違いは、実際に旅をすると、
車外の風景、バスを降りたときの空気、人々の服装、料理の種類、
周囲の植物や動物、朝夜の過ごしやすさと言った情報から、
肌で感じられるのがとても新鮮でした。

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった…ほど劇的ではないにしろ、
高山で乗ったバス、寝て起きたらそこは砂漠であった、くらいの変化があります。
本当に広大で多彩な土地でした。



語力は中学生レベル、スペイン語は挨拶程度という状態でしたが、
行けば行ったで何とかなるもんです。
英語はペルー国内のほとんどの場所で通じますが、母国語ではないので、
お互いカタコトで、それがかえって聞き取りやすく感じたくらい。

分からないから工夫する。
知っている言葉を駆使して伝えようと努力する。
それが日常となる旅の中で、言葉は「道具」なんだなと実感しました。

もちろん、突っ込んだ話や議論をするにはまったく力不足でしたし、
野菜や果物について聞いたり、詳しく学ぶには、
スペイン語の習得は不可欠なのですが。
それは今後の課題ですね。



んなこんなで一ヶ月かけたペルー旅行。
当初の予定通り、野菜や果物に関しても多くの発見があり、
自分の見聞を広める意味でも有意義な旅行でしたが、
またそれ以上の収穫もありました。

商売がとても、身近だったこと。
これが、自分の開業に対する意識を大きく変えたのです。

街角や道ばたで、自分の仕入れた、あるいは育てた品物を広げて、売る。
都市でも、郊外でも、至る所にそうした人々がいます。

野菜、果物、ファーストフード、カットフルーツなどの他、
服、おもちゃ、お土産、お菓子、ジュース……

品物すらなく、ビジネス街では靴磨きや、赤信号で車が停まったら、
その前で大道芸をして、見物料としてチップをもらっていく若者も。

混沌としていましたが、とてもエネルギッシュで、
商売の原点を感じました。



売は、工夫ひとつでできる。
小さなビジネスならば、身軽に始められる。

おおいに刺激され、「自分も、露店から始めてみよう」と。
一番シンプルな形のお店から、やってみよう。
そう、思ったのです。




左)甘辛い肉の串焼き(30円) 右)靴磨き

左)町の果物売り  右)突然始まる赤信号のオンステージ

左)生搾りフルーツジュース(30円)  右)食品屋の店頭

左)高山の村の直売  右)青果市場の仲卸

左)スーパーメルカード(マーケット)  右)村の中央市場

左)コンドルの谷の露店  右)青空ドライブイン

左)標高3700mの路上市  右)商店の風景。極度に乾燥しているので生肉や魚も常温で扱う

左)民芸品を売る女性  右)看板娘はアルパカ



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