有頂天晴果のこと

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2015年1月3日土曜日

八百屋を始めた理由 その6「京野菜直売所(後編)」

節が変わり、期間限定店舗だった屋外直売所の閉店とともに、
観光地で有名な、嵯峨野・嵐山にほど近い、
右京区太秦の直売所へ移動となり、
そこで引き続き、店長をやらせていただくことになりました。

前店舗と違って、屋内…というか、駅の敷地内という好立地で、
風雨の心配が無い上、役所も近いため、人通りも申し分ない場所でした。

ここでは、農家さんと毎朝直接顔を合わし、
また、毎日の売り上げ、売れ行きなどをメールでやりとりする中で、
皆さんの野菜作りに関するお話を聞ける機会が増えました。



の直売所で扱う野菜は、京都市が認めた旬野菜基準に則った野菜」です。
旬の時期に旬のものを推奨するという当たり前のようでいて、
現代では失われつつあるテーマが、この事業には掲げられていました。。

夏は、冬野菜である大根やほうれん草ではなく、
夏野菜のきゅうりやなすを中心に食べよう。
冬はその逆に。いつも、季節にあった食材を選ぼう。
味も、栄養価も、旬の物は格段に優れているのだから。

分かりやすく言うと、上記のような理念です。
もちろん、旬以外の物は絶対に食べてはいけないというわけではありませんが、
旬の物を選んで食べるという行為には、合理的な裏付けがあるのです。



えばこんな話はご存じでしょうか。
今のほうれん草の栄養価は、
数十年前の半分以下になってしまった。
その真相は……




一時期騒がれていたことがありましたが、
これは、本来冬にしか採れなかったほうれん草が、
ハウス栽培などの設備、そして栽培技術の向上により、
従来の数分の一の短期間で育成されたり、
一年中作れるようになったために起こる、数字上の勘違い。

昔と同じ時期、同じ栽培方法で作ったほうれん草を調査したならば、
こういう極端な差は出ません。


旬の京ほうれん草。

糖度10度を超える甘い根部分。

わざと寒気にあてて育てる、ちぢみほうれん草(群馬県産)。

太陽をいっぱい受けるために葉を大きく広げて育つ、真冬の露地ほうれん草。



近ではそのことが周知されて、栄養成分表に、
一年の平均値だけではなく、冬期のほうれん草の栄養価も、
参考として、併記されるようになっています。

京都市の調査でも、露地(屋外)で真冬に、
じっくり育った京都産ほうれん草の栄養価を調べると、
旬以外の時期に採れた京都産ほうれん草と比べて、
ビタミンCは26倍、鉄分は3倍、カルシウムが2倍近く、
他の栄養素もすべて高い数値が出たということです。

旬の小松菜はカルシウムや亜鉛が2倍、鉄分が3.5倍
旬のきゅうりはビタミンB1ビタミンC、亜鉛などが1.5倍以上。

などなど、ほうれん草に限らず、ほとんどの野菜が、
それぞれの旬には、より高い栄養価を示します。

夏野菜は夏の方が栄養価が高く、
冬野菜は冬の方が栄養価が高く育つのです。

当然のことながら、味の良さもごく一部の例外を除けば、
旬のものの方がはるかに、優れます。



れからもうひとつ、「エコ」の問題があります。

常識的に考えて、暑い時期には虫が多く、寒い時期には虫が少ないですよね。
また、南国生まれの野菜は寒さに弱く、寒い地方の野菜は暑いのが苦手
というのもイメージしやすいと思います。

ですので、キャベツや大根、ねぎなどの寒い季節に育つ野菜を、
暖かい、あるいは暑い季節に作る。
するとどうしても、多くの農薬や肥料が必要になってしまいます。

旬野菜農家ではない、知人の農家さんに聞いた話ですが、
冬場は、農薬も化学肥料もごくわずかしか使わずねぎを作っているが、
夏の時期には何倍も使わなくては収穫できないそうです。

味は旬のものに劣るにも関わらず、価格は高くなってしまう。
それでも、そばやそうめんの薬味用としての需要があるので作るのです。

農薬や肥料以外にも、夏野菜を冬に作る場合などには、
ハウス内暖房などの光熱費もかかります。
当然、手間暇も増えます。

そうした経費を補って余りあるほどに、
旬を外した野菜は、流通量が少ない→高く売れるわけですが…




上の様に、旬を外して野菜を作るには、旬に作る場合に比べて、
様々な「消費」が増えてしまうので、
環境にやさしい農業の推進という視点からも、
余分なエネルギーがかからない旬の時期の栽培を進める、というのが、
京の旬野菜推奨事業のもうひとつの核です。

ですので、京の旬野菜認定農家では、
ハウス栽培はOKですが、冷暖房を使用しての栽培は禁止されていました。



とめると、

旬の野菜は栄養価が高く、美味しく、

燃料や農薬、肥料の量も少なく済む。

そして、旬の時期までただ我慢するのではなく、
旬の物を心から味わうためにそれが出るまで首を長くして待ちましょう。
その間は、「今、旬のもの」を思う存分、味わいましょう。

こういう推奨を題目に行われていたのが、
京の旬野菜の直売業務だったわけです。

とはいえ、夏に大根やほうれん草、食べたくなるときもあるし、
冬に、きゅうりやなすを食べたいときもあるのが人情ですよね。

もちろん、厳密に旬に囚われる必要はないと思います。
そもそも旬は絶対のものではなく、毎年微妙に変わる上、
縦に長い日本の場合、土地毎にも違います。
そのすべてを把握するのは困難です。

ただ、各青果物のおおまかな旬を知り、意識することは、
食生活を豊かにする上で、きっと大きな利点となるでしょう。



  トマトのような例外もあります。
  トマトは日本では夏野菜のイメージがありますが、旬は夏ではありません
 
  これは原産地アンデスの特殊な気候が関係します。
  標高2000m以上、空気が薄く、昼夜の温度差が高く、
  冷涼で、雨は全く降らないが霧や雲(ガス)は頻繁に出る。

  このような気候は日本にはないのです。
  つまり、トマトの旬といえる季節は、日本にはないとも言えます。

  暑い時に食べる、瑞々しくて柔らかい夏トマトを好きな人もいるでしょうが、
  味に関して言えば、夏以外の、雨の少ない季節の方が、
  より甘みと旨味の濃い、美味しいトマトができます。
  例えば、九州や京都だと、春の終わりから梅雨に入るまで、
  北海道だと秋のトマトは、糖度が高い物が多いです。
  (ハウス栽培だとまた色々変わってきますが)





は戻りますが、そうした「旬野菜」のコンセプトは守りつつ、
その枠組みの中でみんな同じように作っているわけでは、決してありません。
契約農家さんはそれぞれ、独自のポリシーで野菜を栽培していました。

たとえば、農薬を使わない栽培や、
知事認定のエコファーマー規格での栽培をする人。
特に珍しい野菜や美しい野菜作りにこだわる人。
自分の面白い、美味しいと思う野菜を作る人。
伝統的な野菜作りを守る人、など本当に様々です。

「特に大したことはしていない、普通に作っているだけや」と謙遜する農家さんも、
話を聞いていくと「それ全然普通じゃないですよ!」というような工夫や手間、
費用をかけて、栽培しているのです。



菜は、自分からは生まれも育ちも語りません。
農家さんも、そうした説明が得意な人ばかりではありませんし、
得意な人でも、畑での仕事と同時に店頭で応対することはできません。

だから、野菜とお客様の橋渡しをする人間が必要なのだと、
ここでの仕事を通じて強く思ったのです。

ただ売るだけの人間ではなく、伝える人間。
伝えた上で、つなげる人間。
それは以前ガイドの仕事で学んだ、
インタープリターに通じる役目だと思いました。

家のすぐ裏で最高の品質の野菜が育っていることを、
知らないまま、買えないまま、暮らしているひと。
そんな人を想像すると、伝えたくて、売りたくて、しょうがなくなるのです。

「こんな身近、街中ですごく良いものを作っている人がいる、
なのに周りにすんでいる人はそれを知らないし、伝わらないし、
買える場所も限られている。これは本当にもったいない」





いものを、「良いもの」だとしっかり認識してもらおえたら、
大手スーパーの「安さ」と競争できる。
いや、さらに一歩踏み込んで、共存できる。

そう、青果の販売に携わる上で、大事なのは勝ち負けではなく、
お客様の選択肢を増やすことだと思っています。
自分もスーパーの青果コーナーは良く利用するので分かるのです。

安さや手に入りやすさ、いつ行っても欲しい品がある安定性、
これらはスーパーや青果専門店など、大手販売店の持つ強みです。
ですが、それ以外の部分で、大手はやっていない、
やりたくてもできないことがたくさんある。

そして、これからの時代の青果店を考えるとき、
そこに、重要な鍵があるように思うのです。
今後自分が実現するべき青果店は、その隙間にハマるものになるはずです。

そんな新しい八百屋さんの必要性。
この直売所での経験が無ければ、考えることも無かったでしょう。




て、店舗としては好調だったものの、事業自体が翌年で終了。
その後は、民間企業が引き継ぐ形で、直売業務を継続したそうです。

数年がたち、残念ながら今はもう、この直売所はありません。




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