有頂天晴果のこと

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2014年12月23日火曜日

八百屋を始めた理由 その4「自然ガイド」

回の記事で書いたように、
日本一周の途中、旅の資金を稼ぐため、
行く先々で様々な短期間アルバイトをさせてもらいました。

北海道標津町で、サケバイと呼ばれる鮭の加工の仕事。
佐賀県神崎で、自動車の部品工場での仕事。
沖縄県石垣島で、さとうきびの収穫作業。
沖縄県西表島で、自然ツアーのガイド。
沖縄県那覇市で、那覇港内作業や荷物の配送等。
福岡県博多市で、食品工場でラーメン製造業。

それぞれに面白いエピソードが色々とあるのですが、
現在の開業、そして理想とする青果店に直接繋がるお仕事として、
西表島のツアーガイドは特に、大きなきっかけになりましたので、
今回はその話を書きます。






時、季節は、夏まっさかり。
道中出会った多くの旅仲間から、「せっかく日本一周するなら、最端まで行くべき」
とのせられて、フェリーを乗り継ぎ、沖縄本当からさらに南西、
日本の最西端であり最南端、八重山(やえやま)群島を訪れていました。



重山の中心である石垣島はかなり発展していて、当時、マックスバリュなど、
スーパーが4軒以上あり、空港前にはホームセンターも建っていました。
離島桟橋付近には観光客向けのお店がずらりと建ち並び、人が絶えません。

旅人が多く集まるキャンプ場にテントを固定して仮拠点を置きつつ、
そこでしばらく、資金を貯めることを考えました。
たまに島の農家や工事業者、港作業者達が、日雇いの仕事を持ってきます。
「明日働かないか?できれば他のやつにも何人か声かけてくれー」

石垣島の当時のアルバイト相場は、日当5000円弁当付き。
どこのバイトもだいたいこのくらいでした。
何日かお手伝いしましたが、単発ではなく、
一ヶ月二ヶ月のある程度まとまった期間がないと、
なかなか旅費を貯めるまで至りません。



んなある日、他のキャンパー達から、石垣島のハローワークに行けば、
ある程度まとまった期間の仕事を紹介してくれるよという話を聞きました。
行ってみると、ちょうど、船で数十分のところにある西表(いりおもて)島で、
リゾートホテルがアルバイトを募集していました。

寮完備、昼夜食事付きで、日当は相場通りの5000円。
3ヶ月程度の短期間でも良いということで、早速応募。

島のホテルで面接、その場で即採用していただき、
翌日から先輩に就いて、ガイドの仕事が始まりました。
西表島を訪れたお客様を、海や川、森などにお連れする、
日帰り自然ツアーのお仕事です。

西表島の上原港(当時)


分の目標とするお店のコンセプトは、「」介・販「」ですが、
「紹介」の部分、その原点は、このガイドの経験にあります。
ガイドの仕事をするに当たって、最初に、上司からこう言われました。

「ただのガイドではなく、インタープリターを目指せ」

インタープリターとは、一言ではちょっと説明が難しいですが、
観光用語では、「場所」と「観光客(ビジター)」の「翻訳人」の意味合いです。

初心者ガイドが、教科書に書いてあることを「説明する」案内人だとするなら、
インタープリターとは、教科書の知識はもちろん、
解説者自身が感じた思いや、経験して気付き得たその場所の本質や、
その裏に広がる関係性などを、わかりやすく、楽しく、奥深く、
様々に工夫して伝えることによって、伝えられた人の感性を刺激し、
その世界観を広げる役目を担う人を指します。

もう少し簡潔にまとめると、


「一度訪れるだけではわかりづらいその場所の様々なメッセージを、
 培った知識と経験と感性をフルに活かして伝え、
 訪問者と自然との距離を、ぐーっと縮める専門家」


優秀なインタープリターのガイドに参加すると、
たとえば、ただ何ヶ月もそこにいるだけの人より、
たった半日でも、はるかにその場所を身近に感じられる様になります。

特に、自然そのものを体感することが趣旨のエコツーリングでは、
優れたインタープリターの先導があるかないかで、
ツアーの充実度はまったく違ってくるのです。



西表島・ピナイサーラの滝上にて


私のガイドの先輩の一人に、西表島、つまり地元出身のお兄さんがいました。
山、森、海、川、食べ物や生活、つまり島のすべてに詳しく、
いつもとても面白い、濃厚なツアーを行っていました。

何も珍しい生き物が見つからなくても、
その人について歩くだけで、とても面白いのです。
どこか、島に楽しく迎えられているような、そんな感覚のあるツアーでした。


一方、初心者の自分は西表島の動植物図鑑を購入し、
必死で勉強しながらの頭でっかちの説明ガイド。

雨の日などで生き物が全然出てこないときなど、話すことが途中で途切れ、
気まずい沈黙のまま、どうしようかと冷や汗だらだらです。
『なんでもいいから何か出てくれー!』

そういう日は、キリンの首より長いシダ「ヒカゲヘゴ」
川辺の水たまりにいる「テナガエビ」、地面の石の下にいる「サソリモドキ」
大岩の隙間が寝床の「サキシマハブ」、頭上にぶらさがっている野生の「キウイ」
大きくてインパクトのある「シロアリの蟻塚」など、
いつも大体定位置にいてくれるおなじみの連中が、救世主でした。



大蛇にも見える、倒木したヒカゲヘゴ。


鈴なりになっている、ギランイヌビワ。いちじくの仲間。一応食べられる。


上流に棲むテナガエビ。島の料理屋などで食べられる。美味!


サキシマキノボリトカゲ。西表の自然ガイドたちの定番アイドル。


シマオオタニワタリ。若芽は天ぷらなどで食べられる。非常に美味!


サキシマスオウノキ。板状に根が持ち上がる、準マングローブ。


木の上のアリ塚。


ヤエヤマクワズイモ。里芋の親戚だが、この芋は毒性があって食べられない。


森に自生するシマサルナシ。キウイ(オニマタタビ)の近縁種。


オヒルギ(マングローブの一種)の胎生種子。木になったままある程度成長する。


シレナシジミ(マングローブシジミ)。見た目は大きなシジミ、味はハマグリに近い。


寮の裏手の浜で見つけた、カクレクマノミとその家(イソギンチャク)。


夏の夜咲いて、朝には落ちる、幻のサガリバナ。


サガリバナが水面を漂う。西表島の、夏の風物詩。


数千匹のミナミコメツキガニ。人が近づくと一斉に土を掘って数秒で姿を消す。


干潮のマングローブにヤシの実


ヤエヤマオオコウモリ。猫くらいの大きさで、初めてみるとびっくりする。


バナナの木(正確には草)。ほとんどが島内で消費されて、外には出回らない。


パインの親戚アダン。香りは良いけど美味しくはない。ヤシガニの好物。


畑のパイン。アダンは上から、パインは下から生えてくる。ヤシガニの大好物。


西表島のパイナップル畑。いつか、お店で扱いたい。


浜辺を一時間ほど歩くだけで色々な発見がある。


数十回訪れたマリュドゥの滝。




んな自分も毎日毎日森に入ったり、沢を昇ったり、
マングローブの浜辺でビーチコーミング(漂流物拾い)したりして過ごし、
また、西表島に関する本を片っ端から読み続けて、
少しずつではありますが、島の自然が身近に感じられるようになり…
はじめて島を訪れるお客様に対して、「あれは見て欲しい」
「これも見せたい、見てもらいたい」と思う対象が、どんどん増えていきました。



どうやったら気づいてもらえるだろう。
どうやったら伝わるんだろう。
どうやったら、興味を持ってもらえるだろう。
考える事が習慣になります。


だの道ばたの木も、ものすごく複雑な生態を持っていることもある。
ただの電柱の上の鳥も、実は日本に200羽しかいない希少生物だったりする。
ただの浜辺の貝が、新種のハマグリとしてある日新聞に載ったりする。

伝えなきゃ気づかない「すごいね!」が、この島にはいっぱいあるのに!
少し見方を変えるだけで、興味を広げるだけで、
わずかな滞在期間でも、ずっとずっと良い旅になるのに!

そんな思いで、創意工夫をしつつ、ガイドのお仕事に没頭しました。
力足らずでなかなかうまくいかないことも多かったですが、
貴重で有意義で、充実した経験でした。


電柱の上の王者カンムリワシ。日本に200羽程しかいない特別天然記念物


ういう思いは、青果販売業に携わるようになった今に続いています。
青果を売る人や場所は全国に無数にありますが、
伝える人や知るための機会はまだまだとても少なくて。

それぞれの農作物にある物語やそれに関わっている人たちの情熱、
伝えたいこと、伝わらなくてはもったいないことが溢れています。

格別にうまい野菜や珍しい果物のことを知って欲しい、
気づいて欲しい、伝えたい、興味を持ってもらいたいです。

そのためにアンテナを張り、情報を集め、そして、
自分の感性を元に、工夫して発信する。
それが、自分の「」介販「」の根幹です。



わっている元気の良い八百屋さんなどに行くと、実際、
インタープリターを地で行っている人は多いです。
そうしたスタッフは、「安いよ」「うまいよ」だけじゃなく、

「長年つとめてるけどここまで良いトマトは滅多にお目にかかれない。
 糖度15度、甘いだけじゃなく旨味も濃くて、ほっぺ落ちるよ」
「このナス、持って帰って洗ったら、切ってそのままフライパンで焼いて。
 後は塩振るだけで、舌の上でとろけるご馳走になるよ」

という具合に、説明する人の体験や具体的な調理法を語るので、
自分がそれを食べる未来イメージが、否応なく浮かんできちゃいます。
こうなると多少値段が高くても、買わざるを得なくなります。
一度想像してしまった幸せな未来を捨て去るのは難しいですからね!

もちろん、実際に食べたとき、その期待に応えられる、
いえ、想像のさらに上をゆくような品を用意しないといけません!



れた販売員である前に、優れたインタープリター。
そんな八百屋さんを目指していますし、
そんなスタッフの集まるお店に育てたいと思います。










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